188人が本棚に入れています
本棚に追加
伊波君は、私と瞳が重なると、視線を横に逸らした。
……私の、気になってる人。
それは伊波君です。
なんて、やっぱり恥ずかしくてとても言えない。
でも、伊波君がどういう気持ちで聞いてきたのかわからないけど、その質問にはちゃんと答えてあげたい。
「う、うん、いる」
「そっか」
伊波君は小さく呟くだけで、それ以上なにも聞いてこなかった。
「じゃあ俺、サッカー部の練習に行くから」
「えっ……う、うん。わかった」
伊波君が私に背中を向ける。
そして、ゆっくりと足を前へと進めていく。
言わなきゃ。
ここで伊波君にお礼を言わなきゃ、また同じことを繰り返すだけになる。
「伊波君!」
「……倉町?」
私の声に、顔だけこちらを向ける伊波君。
精一杯、息を吸い込み、思いきって叫ぶ。
「そ、その……お守り、届けてくれてありがと!」
あ、言えた。
やっと私、伊波君にお礼を言えた。
勇気を振り絞って叫ぶ私に、伊波君はいつもの笑顔を見せて、
「ああ、学校で!」
そう手を振りながら伊波君は私の前から走っていった。
最初のコメントを投稿しよう!