囚われの彼女

囚われの少女

「君は囚われているんだ！」

　彼はパソコンの中の少女に言い放った。

「そうさ、君は生まれてくる前からすでに豚のような男どもの相手……そう、恋でも愛でも性癖でもなんでも、受け入れなければならない定めにある！　ゲームの製作者はわかっていないだろう。 彼らはひとつの生き物。　仮想世界の中で、仮想の人物と、決められた会話を行う、一種の知能をもつ生命体でぇあると！」

　それは唐突なことで、教室中のみんなは、口をぽかんと開けたまま、それを見つめていた。

「さらに例えるなら、そう、まさに城に囚われた姫のごとく！　誰が彼女を救うべきか。 答えはひとつ！　彼女を最も愛している男……すなわちこの僕であぁる！」

　拳を振りかざしながら、彼は熱弁する。
　空気の冷えた教室を背に、彼は大いに熱弁する。

「しかぁし、とんでもないライバルが現れた……このゲームの主人公だ！　彼も同じく知能を持つもの……恋敵として早めに潰さねば。 だがしかしｂｕｔ！　このゲーム、主人公の姿が影絵なのだ、外見が一切わからん……クソッ、どうすれば……考えろ、考えろ僕！」

　舌を振るう彼の背後に、いつのまにか教師が立っていた。

「尼寺玄(にじげん)君」

「先生……！　先生ほども生きられたお方なら、僕の言うことは分かるはず！　さぁ、ともに解決方法を考えてください」

「ありますよ。解決方法は」
教師の目は、メガネのグラスの反射で見えなかったが、口は笑っていなかった。

「それは……なんです？」
　彼は驚きとドキドキの混じった声で訊ねた。

「パソコンを切って、君が廊下に立つことです。 今は授業中ですよ」

　教師は、凍るように笑っていた。