機密開示

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「君ってさ、何してるの?」「どこ住み?」  新しい学校の新年度。きっとこんな会話が交わされあい、交友関係の足がかりが作られていく。ごく普通のことだ。でも彼は違った。 「個人情報機密保護法により公開できない」  この前できたばかりの法律を振るって、それらを払いのけるのだ。  彼は人に話すのも、話しかけられるのも苦手だった。  だからその法律を使って、自ら孤立していった。最初はそれでよかった。  そんな彼が一人の、他クラスの少女に恋をしていることを自覚したのは、壕(ほり)のような溝が周りとの間にがっちりと築かれてしまった頃だった。 「機密を一つ、公開しよう。君と仲良くなりたい」  ツリ目がちだけど、どこか優しさを含む彼女に近付こうとした。でも上手くいかない。 「もう一つ公開しよう。僕はこんな風に生きてきた」  諦めきれずに近付いて、 「僕はこんなことをできる、知っている! これは重要機密だ!」 「僕の大切な機密を君だけに!」  そのたびに拒まれた。振り向いてさえもくれない。 「どうして……いままで誰にも話したことの無い、トップシークレットなのに……!」  ある日、彼はそんな風に、泣きながら少女へ叫んだ。すると、いままで見向きもしなかった彼女が振り返り、こう言った。 「あなたはまだ、重要な機密を隠してる。言えば、自分を揺るがしかねないのを分かってるから。でもそれはみんな持ってる。それを打ち明けてこそ、信頼ができるんじゃないの」  彼はハッとした顔で彼女を見た。そして涙を拭いて、一息置き、そっと一言呟いた。 「僕は君が好きだ」  彼の眼差しの向こう。  少女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
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