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「お願いです、私たちを剃らないで!」
朝、自分のひげを剃ろうとすると、そんな悲鳴が聞こえてた。
「……誰だ?」
俺は一人暮らしである。他に人など居るはずがない。俺はどうやらまだ少し寝ているらしい。眠気眼で映る鏡の向こうの自分を小突きながら、剃刀を近づけると、
「うわーもうだめだー」「あきらめないで!」
うるさい声がまた聞こえた。あごのあたりだ。ふと鏡に近付いてそこを見ると、ひげが動いていた。あんびりばぼー。
「な、なんだこれ……!」
湧いた疑問を解決する暇もなく、彼ら(?)は話しかけてきた。
「「「異星人さん、どうか話を聞いて!」」」
あごの辺りから一斉に叫ばれるとうるさい。これはあれか、一種の脅迫か。
「わかったわかった、聞くから少し声を抑えろ!」
鏡越しに詰めあって話せば、彼らは違う星の生物らしく、ワープで旅をしている途中に嵐に巻き込まれて、俺の毛穴に一人ひとり飛ばされてきたらしい。
何を言っているのかわからないかもしれないが、俺もわからない。
「俺はこれから仕事があるから剃らないわけにはいかないぞ」
「なにか解決策があるはずです……」
言っても、脱毛エステになんて行けないし、自分で抜くのも痛いし遅いし……。
「女王様」「なぁに?」「ごにょごにょ……」
考えあぐねていると、彼らは内輪で話を始め、何か案を出したみたいだ。
「人間さん、今対策を行いました!」
「本当か? 本当に通勤しても平気か?」
「はい!」
半信半疑でスーツに着替え外に出る。
行く人みんな、もじゃひげ面をしていた。
「……なんだこれは?」
「「「旅団の仲間を道連れにしてきました!」」」
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