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「好きです! 付き合ってください!」
急(せ)く急(せ)く帰る人々が、夕焼けに影を焼かれる、駅の改札。僕は彼女を呼び止め、思い切って思いをぶつけた。
「……」
彼女は無表情なまま、僕を見つめ返した。
当たり前な反応だろう。
いきなり呼ばれたと思えば、見知らぬ人から告白をされたのだから。
それも、人前で。
「僕は……この駅であなたのことを始めて見かけたあの日から、ずっと好きでした」
心臓に全身を揺らされているような錯覚をおぼえながら、僕はゆっくりと想いを言葉にしていく。
「……ふーん、それで?」
しかしやり取りをしていくうちに、彼女は無表情というより、上から目線といった振る舞いで接してきているのがわかった。
僕は勢いを削がれかけた。
しかし、野次馬が増えてきたこの状況で、退くわけにはいかなかった。
第一、告白のチャンスは一度きり。
見知らぬ相手に告白されれば、相手は受けるか気味悪がって消えるか、どちらかだ。
「抑えても、どうしてもあふれてしまう自分の気持ちに、嘘をつくのは止めにしたんです。だから今日、告白しにきました。」
周囲のざわつきが増す中、僕は彼女の答えを待った。
「……いいわ、付き合ってあげる。私もあなたのこと、好きだったの」
一瞬、目が眩みけた。僕は思わぬ最高の答えを貰ったのだ。
現実感のなさと高揚感でどうにかなってしまいそうだった。
そんな喜ぶ僕の両手が、誰かに握られた。
一人は彼女だ。
では、もう一人は……?
「鉄道警察だ。キミ、何してるんだい」
「え、告白……ですけど」
「二十歳超えた男が児童に、か」
僕はおまわりさんに手を繋がれ、その場から連れて行かれた。
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