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救急委員の誇りである純白の特攻服(校長の刺繍入り)を身につけた生徒達が、担架を抱えすぐに校長の脇にいる梵部医師の元に駆け寄った。
彼らは梵部医師から指示をもらい、てきぱきと担架へと移す。
「搬送先は?」
「ここから10kmほど先にある息子の病院へ運べ。電話を入れてあるゆえ、儂も後から行く…」
杖で体を支えながら、ゆらゆらと梵部医師は立ち上がる。
「搬送!!」
救急委員は速やかに担架で校長棟の前にとめてある救急牛車(朧車仕様)に校長と共に乗り込んだ。
“ウーッ”“ウーッ”“ウーッ”…
手回しサイレンが朝の静けさの中に響き渡る。
「出ぱーつっ!!」
「「「うおぉぉぉあぁー!!」」」
絆愛高等学校きっての俊足揃いを結集した、褌姿の剛脚委員10名が、力強く牛車を動かした。
先頭は委員長を始め、名だたる陸上部が引っ張り、左右と後ろからは、力自慢の委員が押す。
皆、こめかみや腕に血管をしっかりと浮き上がらせながら、100mを10秒で駆け抜けるスピードを落とすことなく、全力で搬送する。
“ウーッ”“ウーッ”“ウーッ”……
やがて手回しサイレンの音がだんだん小さくなり聞こえなくなった。
「儂もこれから向かう。あとはよろしくな…」
梵部医師は杖をつきながら、少し離れた場所に駐車中の長年の愛車、補助エンジン「カブ―F」を装着した自転車に跨がると、ゆったり出発した。
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