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何人かの残る台所を覗いてから、慎之助は改めて建物内をまわる。
「戸締まりに関しては問題なかった。天窓も……」
明かりとりの小さな天窓は、人が出入りできそうな大きさには見えない。
「緊急脱出用の秘密の通路でもない限り、外部からの侵入は不可能だ」
校長の倒れた部屋に入る。
畳を舐め回し臭いを嗅いでいた金田市が煩わしそうに何度か咳をしたが、慎之助は気にせず奥へと進む。
「ここが桐だんすのある部屋で……こちらがトイレか」
特に何か目立って気に止めるものもなく、普通の純和風な部屋だ。
「ん?これは?」
何気なく座敷机に置かれた広告で作られた箱に目を止めた。
「何が入ってたんだ?」
少し揺らしてみると、赤い粉とツブのような物が残っている。
「唐辛子か?金田市先輩、この座敷机の……」
「なんだッぺ!?」
金田市は迷惑そうにやって来た。
「これは?」
「唐辛子……鷹の爪と初めて口に入れた、痛いくらい辛い唐辛子のミックスだっぺ」
「ブート・ジョロキアか……」
「そったらモン、ワスは口に入れたことがねから断定できねえっぺ!気になるならヌシが舐めたらいいだ」
「……遠慮する」
苦笑する慎之助に『意気地がねえっぺ』と鼻で笑い、金田市は戻っていった。
「何かがここに入っていた。毒ではないようだが……あれだけピンピンしているところを見ると」
味見をした金田市の様子から見てもそれはわかる。
「カーッ…ペッペッ…こんなと…ころにまで…校長の汗が…し…みこんで……ぐっはっ…ガハッガハッ…舌が…切り刻まれ…そ…だっぺ」
もがき苦しむ金田市に憐れみの目を向けながら、慎之助は台所へと戻った。
「あの座敷机にある広告で作った箱には何が?」
残っていた生徒は『わからない』と首を振る。
「時々、校長自ら七輪を使って何かを作っていた」
「ただ、その後はいつも、建物内の空気がとてもひどくて、目も開けられなかった」
「皮膚も痛くて……毛穴が開いて汗だくになったんだ」
「二日くらい前にも作っていた」
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