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牛車から愛車を下ろしてもらい、梵部医師は校長棟へと入ってきた。
「Doctor、校長は?」
会長の問いに
「儂が帰る前に、『腹が減った』と騒ぐ故、剛脚委員に牛丼を買わせに行かせたわい。15人前はペロリと平らげよったわ、あの食いしん坊は」
『くわっくわっくわっ…』と杖に手をのせ仰け反り笑う。
「梵部センセ……校長は毒で…青酸カリだっぺ?」
スライディングするように滑り込んできた金田市を、梵部医師は軽く杖で押さえる。
「青酸カリ?何を言っとるんだ?」
訝しがる梵部医師に『毒殺されたんだっぺ?』と金田市はなおも叫ぶ。
「何を言っとるのか……儂にはさっぱりわからん」
首を傾げコツコツと台所へと入り『茶をくれんか』と傍の生徒に声をかけ椅子に腰掛けた。
「外の生徒にもなにか飲ましてやれ。あやつらの脚はたいしたもんじゃ」
梵部医師にそう言われ、葉隠が今回全く活躍のなかった生徒会メンバーに水分補給の手配をする。
「Doctor……校長はいったい…曲者が侵入したんでしょうか?」
会長の問いに『曲者?』と不思議そうに見上げる。
「絆愛の歴史において、曲者が侵入しようとした事例は500件以上あるが、侵入を許したのは片手ほど。だが、誰一人として、無事に帰った者などおらんわ。くわっくわっくわっ…」
「無事に帰った者が……いない」
ゴクリと音をたて、皆は唾を飲み込む。
「丸裸にされ、荒縄で縛られ吊るされる者など可愛いもんであったな。懐かしい思い出だ」
目を閉じ過去を振り返っているのか、時折うっすらと笑みを浮かべている
「ぐすっ……センセ…走馬灯のように、思い出してるっぺ……命の火が尽きようとしてるだか…」
“パーンッ”
涙を流す金田市の額に、梵部医師の杖がめり込む。
「ばかもーん!儂はまだまだ長生きするんじゃ!たわけがっ」
金田市は額を押さえ転げ回る。
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