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「お客さんが来てるのよ。こっちに来て、挨拶しなさい」
杏奈さんはソファーから立ち上がり、声を掛けながら扉に向かって歩いていく。
そっと覗き込むと、視線の先にはテディベアを抱っこした5歳くらいの女の子が、扉の隙間からこちらの様子を窺うように立っていた。
「ほら、あのお姉ちゃんはとっても優しいから大丈夫よ。咲菜のお友達になってくれるわ」
杏奈さんはそう言って女の子の目線までしゃがみ込むと、小さな手を掬い上げてにっこり微笑んだ。
女の子は私を警戒しているのか、黙ったままそこから動こうとしない。
「ごめんなさいね。この子、極端に人を怖がる子で…。直ぐに疲れちゃう体質で、一日のうちに何度も仮眠をとるの。夕食を食べたらそのまま寝ちゃって、やっと目が覚めたみたい」
うつむき加減で、ただ私をじっと見つめる女の子。
…杏奈さんの娘さんか。―――人見知り?…にしては、ちょっと…違う?
直ぐに疲れちゃう体質で、一日に仮眠を何度もとる?
あれくらいの子供って、そんなにお昼寝しないよね?確か。
―――何かの、病気があるのかな…。
「咲菜ちゃん、こんばんは。私、麻弥って言うの。私はママと…正臣お兄ちゃんのお友達よ。よろしくね」
歩み寄りたい気持ちを抑え、女の子が怯えぬようソファーの横で床に膝をついてニッコリ笑った。
女の子は何も言わず、そして動かず。
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