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…うっ、えっと…どうしようかな。――笑顔を保ったまま、次の作戦を考える私。
「麻弥ちゃん、咲菜は私の子供じゃないわよ。正臣の大事な一人娘よ」
女の子の声の代わりに届いた、杏奈さんの声。
「へっ?…や、やだな~杏奈さん。また冗談ですか?もう騙されませんよっ」
「いやいや、これは冗談じゃないんだけど…な」
引きつる私の表情を見つめ、杏奈さんが気まずそうに声を落とした。
えっ……冗談じゃ…ないの?
杏奈さんと女の子を交互に見つめ、私の表情は半笑いのまま凍りついた。
「大丈夫、そのお姉ちゃんは咲菜の側にいてくれる人だ。パパのところにおいで、咲菜」
その声が私の頭上を通り過ぎたその直後、今まで微動だにしなかった女の子が私の方に向かって走り出した。
フローリングの上を、小さな素足がペタペタと音を鳴らし私の横を素通りした。
私は何が起こったのか理解ができず、茫然としたまま、ゆっくりと後ろを振り返る。
瞬きを忘れた目に映るのは、安心しきったように大きな体に抱きつく女の子。
「先生?…」
放心状態の私。
震える唇から、小さな掠れ声が漏れ出る。
「咲菜は俺の娘だ。この子に会わせたくて麻弥を呼んだ。お前と雇用契約を結びたい」
静かにそう言った彼の瞳は、私を真っ直ぐに見つめていた。
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