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杏奈さんの様子を見て、ネガティブなオーラを出しまくっていた自分に気づく。
「い、いえっ。同じのでお願いします。すみません…」
…何してんだろ、私。こんな態度、不自然すぎるのに。
どうしようもなく申し訳ない気持ちになって、咄嗟にぺこりと頭を下げた。
「……オレンジ…ちょうだい」
耳に届いた、高くて透明感のある声色。
咲菜ちゃん…。これが、咲菜ちゃんの声…
可愛らしい声を放った少女に目を向け、そっと口を引き結んだ。
杏奈さんは冷蔵庫からオレンジジュースを出し、コップに注いで咲菜ちゃんに差し出す。
先生の膝の上から下りた少女はその横に深く座って、ウサギ柄の付いたプラスチック製のコップを両手で持ってジュースに口をつけた。
「咲菜ちゃん、何歳ですか?」
「5歳。保育園の年中組」
「…そうなんですか。うちの姪っ子の一人と同じ年だ…」
静かにジュースを飲む少女を見つめ、私は複雑な気持ちで呟く。
「そうか。そう言えば、甥っ子と姪っ子が何人かいるって言ってたな」
「みんな口が達者で…特に女の子は。言う事が生意気で、どこでそんなませた言葉を覚えて来たの!?って、びっくりします」
「そうか。…これくらいの子は、そうなんだろうな」
咲菜ちゃんの横顔を見つめ、どこか切なげに目尻を下げた。
…先生?
「…咲菜ちゃんは、とても大人しい子ですね。先生に似ず、恥ずかしがり屋さんなんですねっ」
彼の表情にどこか違和感を感じながらも…
自分の気持ちを落ち着かせようと、冗談交じりの言葉で笑って見せた。
「…咲菜は、まだ言葉が上手に話せないんだ」
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