1582人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺の出した条件にただ、YESと言って欲しい。…麻弥だから頼むんだ」
「…私だから?どうして?…私は子育て経験なんて無いし、それに…」…発達障害?
こんな言い方をしてはいけないと分かっているけれど、私なんかで良いのか、上手く関わってあげられるか不安が募る。
私を避ける、怯えたようなあの視線…
教育係だなんてそんな重要任務―――はっきり言って自信が無い。
「突然の事で驚きも、不安な気持ちも分かる。だけど、麻弥なら大丈夫だ」
私の表情を読み取った様にそう言って、彼は目で頷いた。
「…大丈夫だなんて、どうしてそんな事が言えるの?」
「俺は、子供達と遊ぶ麻弥の姿をずっと見ていた。病と戦う子供達を支えようとする温かな笑顔。病院と言う閉鎖されたコンクリートの囲いの中で、その場所だけ空気が違って見えた」
…私をずっと見てたって、気になって仕方ないって、
―――あの言葉は、これが目的だったの?
私の心を誘い出した甘い言葉が、走馬灯のように思い出される。
…閉ざしていた私の心を揺さぶって、捕まえて、…捕まえるために、抱いたの?
自分に惚れさせて尚、「秘密を共有」できる『家政婦』を確保する為に?
「……」
身体に刻まれた愛しさと、思考の中で生まれ出る悔しさ。
そして、強引に突きつけられた彼の身上。
湧き起こる同情が、新たな揺さぶりをかける。
―――こんな形で、私の心を支配するの?
あなたは、なんて…
「…残酷な人」
震える唇が、掠れた声を落とす。
「…本当の俺を知って、嫌いになったか?」
膝の上でギュッと握られた私の手に、彼はそっと手のひらを乗せた。
最初のコメントを投稿しよう!