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彼の大きな手のひらが、閉じられた小さな手を包み込む。
染み入るように伝わる、彼の体温。
水を得た魚のように、複雑な心境の中で目覚める甘美なときめき。
―――顔が、熱い。
..こうしてまた、私を惑わすの?
『俺を嫌いになったか?』なんて…
…私、あなたに好きだなんて言ってない。
誰もが認めるエリートドクターに抱かれるチャンス到来だなんて、女なら多少の興味はあるじゃない?
あなたの持つスターテスに魅力を感じただけ。
…そして私も、好きだと言われた訳じゃ無い。
最初から、恋心なんかじゃない。
お互いに…これは、恋なんかじゃない。
―――なのに、どうしてこんなに胸が苦しいの?
重なった熱に視線を落とし、下唇をキュッと噛んだ。
自分の心に唱える強がりな言葉とは裏腹に、手の甲から伝わる彼の体温が愛しくて、もどかしくて、…切なさが増す。
あなたは心の暗闇に射し込んで来た、夢に誘う眩い光。
真実が受け入れがたいものだとしても、嫌いになんてなれない。
私の気持ちを知っていて、わざとそんな無粋な質問するのね。
あなたは残酷で、…狡い人。
重ねられた手を、私はゆっくりと引き抜く。
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