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「…嫌いになる理由なんてありません。最初から、お金絡みの関係ですから。
そのお話…時給額については申し分ありません。ただ、私も仕事をしながらになるので、詳しく仕事内容を教えてください」
そう言って、彼に負けじと平静な笑みを浮かべて見せた。
「そうか、そうだな。内容も聞かずにYESも出ないな」
先生は小さく笑って、行き場を失った手のひらを私の膝元から引っ込めた。
私は落としていた肩を引き上げ、ざわめく気持ちを落ち着かせようと鼻から大きく息を吸い込んだ。
最初の一粒だけ賞味されただけで、そのまま存在を忘れられているチョコに視線を逃がす。
「チョコ、もう一つ頂いて良いですか?」
「ん?――ああ、好きなだけ食え」
何の脈絡も無い私の言葉に肩透かしされたと感じたのか、先生はフッと軽く鼻で笑って、ソファーにもたれ掛った。
上品に振る舞う余裕など無い。
私はピンクのパウダーで包まれたチョコを押し入れるように、一口で食べてしまった。
苺の香りが口の中で広がったのもつかの間、味さえも楽しむ余裕の無い私は、急かされるかのようにそれをゴクンと飲み込んだ。
「…さっき、時間が夕方の7時だと聞きましたが、どうして7時なんですか?それまでは誰が咲菜ちゃんの面倒を?」
一息ついて、私の方から業務内容の話に踏み切った。
「保育園の延長保育は7時まで。それまでに咲菜を迎えに行って、自宅まで連れて帰って欲しい」
「延長保育…なるほど」
「帰宅したら―――」―――彼が並べた業務内容は、主に三つ。
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