第8話 【正臣の秘密】

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「あっ、紅茶より珈琲のが好き?」 「いえ、紅茶大好きです」 「そう、良かった。私も紅茶が好きで種類は揃えてあるのよ。ストレートなら、ダージリン、ディンブラ、ルフナ、カンニャム、アッサム。フレイバーならアールグレイ、バイカル、フランボワーズ、アップル。ブレンドならアフタヌーン、オレンジペコー、イングリッシュブレックファースト。どれがイイ?」 お姉さんは流暢な発音でそう言って、ニッコリと笑う。 …えっ!? 今の、全部紅茶の種類!? なんて綺麗な英語の発音。舌の巻き具合が本格的。 アメリカから帰国って、旅行じゃなくて長く在住してたってこと? 滑らか過ぎて聞き取れませんが... ダージリン…アッサム…アップル…オレンジペコー…あと、何だって? ストレートとフレイバーとブレンドの違いも分からないんですけど…何が違うの? 紅茶大好きと言いながら、よく耳にする定番の種類の美味しさの違いさえも分からない。 こんなに種類を言ってくれたのに、ダージリンなんて言ったらつまらないって思われちゃうかな… 「…あの、紅茶の種類よく分からないのでお姉さんのお薦めでお願いします」 考えた末に、恥ずかしそうにそう言葉を返した。 「 私のお薦めはカンニャム。ネパール産の茶葉なんだけど、出荷数が少ないから専門店でしか手に入らないの。味はダージリンに似てるから飲みやすいと思うわ」 「ええっ!?出荷数が少ないって、そんな貴重な茶葉を私なんかが頂くなんて勿体無い!」 調子に乗って「お姉さんのお薦めで」なんて言ってしまったけれど、 「普通のダージリンでお願いします!」 広げた二つの手のひらを振って、慌てて前言撤回をする。 「何が勿体無いのよ。面白い子ねっ。正臣ー、麻弥ちゃんと私にカンニャムよろしくー」 「ああ、了解」 「了解って、...エエーッ!!まさか、先生が紅茶を?!」 いつの間にかキッチンに立ち、食器棚からティーカップを取り出している先生を凝視しながら出た声が、思わずひっくり返った。 「勿論、正臣が入れるのよ。だって、ここは正臣の家。あなたは正臣のお客様。そして何より、私に家事は似合わない。でしょ?」 お姉さんは「うふふっ」と可愛いらしくも無敵感いっぱいの笑みを浮かべる。
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