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「は、はい。そうですね…」
確かに、このお姉さんに家事など似合わない。
この大きなソファーに座り、執事が入れた紅茶の香りを楽しむ優美な姿しかイメージできない。
その執事が、あのエリートドクター高瀬正臣ってこと!?
鳩が豆鉄砲を食ったような顔でキッチンに視線を置く。
「ああ見えても、正臣って家事が嫌いじゃ無いのよ。料理もそこそこ出来るし。まあ、やらざるを得ない状況だから上達するんでしょうけど」
…ん?やらざるを得ない状況?
ああ…、お姉さんがこんな調子だから仕方ないのか。
それにしても、あの先生が家事が得意なんて信じられない!
ティーカップをカチャカチャ鳴らして、女性のためにお茶を入れるあの姿…病院の皆が見たら目ん玉飛び出しモノだ。
そんな意外な先生の私生活を覗けるなんて、得した気分っ!
彼を見つめる目を細め、自然と口もとが緩む。
「麻弥ちゃんどうしたの?ニヤニヤしちゃって」
私の顔を覗き込むようにして、お姉さんの長い睫毛が瞬きを繰り返す。
「へっ!?いえ、何でもないです。…」
…あれ?
そう言えば、さっきお姉さん…「ここは正臣の家」って言ってなかった?
それに―――二日前、先生言ってたよね?家族は別の所に居るって…。
病院の誰かがお姉さんを見かけたのは、数か月前か、数週間前か…少なくとも、ここ数日前の話じゃないはず。
…どうゆう事?
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