第8話 【正臣の秘密】

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「美人で明るくて、素敵なお姉さんですね。…先生とは、全然キャラ違う」 ミラーガラスの棚を開けて、ガサガサと物色しているお姉さんの背中に視線を飛ばし、クスッと小さな笑みを溢す。 「頭ん中が常に飛んでる女だからな。顔も性格も母親そっくりだ」 先生は苦笑いを浮かべながらそう言って、ゆっくりと珈琲を口にする。 ――そうだ、お母さん! 「お母さんはご健在…ですよね?」 「ああ。母親はピンピンしてる。杏奈と同じジャクソンビルで暮らしてる。エステだか何だかのサロンを経営してるから忙しいみたいだ」 「アメリカでエステサロンを経営?!それはまたゴージャスな…もの凄い行動力のあるお母さんですね」 眉を引き上げ、感心も込めた驚きの声を上げる。 「母はもともとフロリダ州の生まれなの」 対面キッチンの向こう側。 三つ並んで天井から吊るされる、丸い小さなペンダントライトの淡い光に照らされてお姉さんが声を挟んだ。 「フロリダ州の生まれ!?じゃあ、お母さんがアメリカ人で、お父さんが日本人?やっぱり…外国の血が入ってるんだ…」 思わず零れた私の呟き。 先生は薄っすらと笑みを浮かべ、頷きだけで返答をした。 「父に先立たれた時、私達の手が離れたらフロリダに帰るって決めてたらしいわ。父が起こした事業を支える覚悟で。まだ学生だった子供二人抱えて、女一人で当時は苦労したみたいだけど。でも今は、主人が事業を継いだから母は好きな事して自由に生きてるの。 それはさて置き、お皿に並べるのめんどくさいから、チョコ、箱のままで良いかしら?」 「はい。勿論、箱のままで十分です!」 「めんどくさいってお前…箱ごと持って来てから聞くなよ。相変わらず、突っ込みどころ満載な奴」 焦げ茶色の箱を持ってこちらに戻って来たお姉さんに向かって、透かさず先生が茶々を入れる。 「御姉様に向かって突っ込みどころ満載ですってー!正臣にはGODIVAトリュフあげないからっ!」 「甘いものは要らん」 「要らん!?ホント、あんたは父親そっくりねっ、その仏頂面!麻弥ちゃん、正臣って職場でもこうなの?」 お姉さんは「ウキーッ!!」と悲鳴を上げんばかりの顔つきで先生に言い捨て、眉を下げて私に詰め寄る。
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