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「えっ!?あの…職場での先生はこんなに話をしないし…周囲に無関心と言いますか…」
―――無機質と言いますか…
「…少なくとも、職場で人に突っ込み入れてるところは見た事ないです」
お姉さんが持つ気圧に押され、たじろぎながら言葉を並べた。
「ふ~ん、そうなんだ。外面は良さそうだもんね。そこも、父親に似て」
お姉さんは不満気な様子で口を尖らせた。
お姉さんが母親似で、先生が父親似なんだ…確かに先生とお姉さん、似てないな。
ガラステーブルに置かれた正方形の箱には、ナッツ、キャラメル、バニラ、ココア、シナモン、ストロベリーに抹茶。色とりどりのパウダーに包まれたトリュフが並んでいる。
彼女の笑顔に勧められて、私は抹茶パウダーに身を包んだチョコを上品に口に含んだ。
あ~っ、なんて柔らかい!口の中で溶けてる~。
「美味しっ。チョコって幸せな気持ちにさせてくれるわよね~」
先手を打って、お姉さんが頬に手を当てながら無邪気な笑みを放つ。
高瀬先生はそんな彼女を眺めて、フッと静かな微笑みを浮かべた。
――先生、凄くリラックスしてる?
自分の家なんだから寛いでて当然なんだけど…自然体で、とっても優しい顔してる。
さり気無く二人の間で視線を交差させながら、温かな感情に包まれていく気がした。
二人は若くして父親を亡くして、両親も兄妹も健在な私には到底想像もできないような、悲しみと苦労を乗り越えて来たんだろうな…
今はこんなゴージャスな生活してて、金銭感覚も理解出来ないけど…そこらへんの、苦労知らずの成金ドクターとはちょっと違うみたい…。
それに、お姉さん…
「どうしたの?そんなに私を見つめちゃって」
私の視線を感じた様で、お姉さんがくっきり二重の大きな目を、更に大きく開いて私を見つめ返す。
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