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「いえ…あの…、お姉さんは愛情深くて、とても強い方だなって思って…。
さっきは言葉が詰まって言えなかったんですけど、成人式の着物を着てお父さんの看取りをした話を聞いて…そう思いました」
不意を突かれ見つめ返された私は、しどろもどろに言葉を連ねる。
「えっ!?…それが、どうして?」
お姉さんは目を丸くし、チョコを摘まむ手を止めた。
「そんな状況で、咄嗟に出来る行動じゃないと思います。私だったら、伝えたい気持ちよりも周囲の目を気にしてしまうと思うから…。お父さん、きっと凄く喜んでくれましたよね」
「…そうだと良いけど…、私が着いた時にはもう意識は無かったから」
「人は意識がなくなっても、最期まで聴覚は残ると聞いたことがあります。意識が無くても、見えなくても、お父さんにはお姉さんの晴れ着姿が見えていたと思います!」
「麻弥ちゃん…ありがとう。その場にそぐわない姿だったから、親戚の中には不謹慎だとか言う人もいたけれど…そんな風に言って貰えて嬉しいわ。
正臣からは、信頼できる病院関係者の友人が来るとしか聞いて無かったけど、麻弥ちゃんはナース?」
お姉さんは、胸もとで揺れる柔らかな髪を耳に掛け、満面の笑みで目を細める。
えっ?!…しまった。
藤森さん曰く「医療関係者でもないただの事務員」のくせに、生意気な口を利いてしまった…
もしかして、先生―――呆れてる?
恐る恐る先生が座るソファーに目を向けた。
「彼女は有能な俺の専属クラークだ」
おずおずと視線を上げた先には、きっぱりとそう言い放つ、先生の得意気な顔があった。
「ええーっ!?」
ドクターの専属クラークって、そんな配置ありました?!
いや、無いっ!
って言うか…『俺の』って… 胸がドキドキする。
能天気もイイとこで、有能と言われた事よりも…正直、とっても嬉しい。
「なんだ?間違ってないだろ?」
先生はソファーの肘掛けに右腕の肘を置き、体重を預ける右側にやや体を傾けたまま、意味有り気にニヤリと笑う。
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