6人が本棚に入れています
本棚に追加
「怪しいとは思ってたが……てめえ、本当は何者だ?」
昼に出逢ったときと変わらぬクールな態度で、ユティスは何も答えなかった。
「まさかただの旅人が、こんなとこまで迷い込んだわけじゃねえだろ。俺の部隊――役立たずのクソ共はどうした? 殺したのか?」
「お前の部下に用はない。だから、僕の連れが相手をしている」
「連れ? あの気色悪ぃ嬢ちゃんが?」
中東某国の魔導師団に属した、名のある魔術師の首を取ったとき以来――久方ぶりに可笑しくなり、ギルバートは噴き出した。
「冗談はやめろ。クソ共でも俺の部隊だ。嬢ちゃん一人、遊び相手にもなりゃしねえよ。まあ、僻地に飛ばされて、あいつらも鬱憤が溜まってる。弄び相手にはなってるかもな」
「確かに。一般兵程度、遊び相手にもならないだろう」
「――何だと?」
ユティスの含んだ言い方が気にかかり、ギルバートは耳を澄ます。正確には、魔力で聴覚を強化させた。もし戦闘音が響けば、これで基地内のどこでも捕捉できる。
なのに、聴こえない。
戦闘音ばかりでなく、何も聴こえない。部屋の周囲のわずかな範囲を除く、基地内の音という音が。
(俺が何かされてるわけじゃねえ……。基地全体に知覚妨害……騙欺系の魔術か? んなバカな。オリハルコンで造られてる基地だぞ)
最初のコメントを投稿しよう!