1.嵐が止んだ夜

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「早く決めてくださいユティス様。いい加減、私も我慢の限界ですぅ」  西洋最大の領土を有する大帝国。その辺境、荒野に囲まれた小さな町の飲食店に、店員や常連の見慣れぬふたり連れがいた。  木製の丸テーブルに座す、青年と少女。  青年の年の頃は二十歳やや手前というところ。軍服に似た黒コートを羽織い、腰には長剣を吊っている。すらりとした長身で容貌も美形だが、切れ長の眼が放つ眼光は鋭く、他者を寄せ付けない雰囲気を醸し出す。  対面に座る少女は東洋人だ。栗色の髪、大きな瞳と小柄な体が仔犬を髣髴とさせる。幼さが残る顔つきは人形のように整っており、大和撫子という言葉が相応しい。緋袴が異様に短い巫女装束を着ていて、滑らかな白いふとももがのぞく。 「そんなに腹が減っているのか。まだ昼時より少し早いが」  ユティスと呼ばれた青年がそう言うと、少女はテーブルを勢いよく叩いた。 「そうじゃありません! 一体いつになったら、ユティス様は私のものになってくれるのかということです!」 「馬鹿が。お前はいつになったら、僕にその気はないと理解する」 「……わかりました。じゃあ、代わりに私をユティス様のものにしてください」 「お前、何もわかっていないな」
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