1.嵐が止んだ夜

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「……コブつきなだけじゃなく、傷物かよ。ちっ、あーあ、一気に冷めちまった」  先ほどまでの怒りはどこへやら、特等席へ戻っていく。 「耳障りな上に目障りだ。気持ち悪ぃ。さっさと俺の町から消えやがれ」 「長居するつもりはない。来い、アカリ」  元通り装束を着たアカリを従え、ユティスは今度こそ店を出た。  町の中心にある噴水広場。ユティスとアカリはベンチに腰掛け、ランチをとっていた。  噴水の側では、子どもたちが水遊びをしている。魔術で水を宙に浮かせ、互いにかけ合い、きゃあきゃあと騒ぐ。  他国では厳しく規制される一般人の魔術使用も、この魔導国家においては――いくつかの特例を除き――全くの自由。魔術で遊ぶ子どもなど、珍しい光景ではない。  ホットドッグ片手に、ユティスは隣のアカリに声をかけた。 「さっきはよく機転を利かせた。あの場で小競り合いを起こすのは、得策でなかったからな」 「えっへん、当然です。旦那の想いを汲み取るのが、嫁のメイン業務です」  褒められて嬉々とする。  実際、アカリの咄嗟の判断のおかげで、ギルバートとの想定外の衝突を回避できた。しかし――。
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