1.嵐が止んだ夜

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「ユユユユユティス様の食べかけ……もぐもぐ……間接キスを飛び越えて、間接摂取できるなんて……はむはむ……あぁあん、ユティス様の味がします。アカリはとっても幸せです!」 「動物の屍肉と小麦粉の味の間違いだ」 「私は細胞レベルでユティス様を感じ取れます」  何を言っても無駄か。  ユティスは諦めて話を切り替えた。 「帝国軍魔導師団所属、ギルバート・エスクドア大佐――通称〈魔嵐将官(レックレスデーモン)〉。奴のプロフィールだ」 「……将官? 大佐なのに将官って、おかしくないですか?」 「通称と言っただろう。帝国による先の中東侵略の折、奴の率いる部隊が功績を上げ、奴は昇進確実と噂された。だが、見た通りのあの性格だ。調子に乗って問題を起こした」  ユティスの言葉に耳を傾けながら、アカリは服を着直す。 「それだけなら些事で済んだろうが、なまじ目立っていたせいで、隠蔽してきた過去の問題行為までもが暴かれ、追及された。結果、奴の将官への昇進は幻と消えた」  〈将官〉とはつまり、ただの皮肉に過ぎない。 「通称てか、悪口ですよね」 「そうとも言い切れない。内面はともかく、実力は師団上位クラスだそうだ。ゆえに、奴はここに飛ばされた」  ユティスとアカリは町を眺めた。荒野に囲まれた辺境の町を。
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