第7話

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 ふとリビングの掛け時計を見ると、時刻は午前三時を過ぎていた。帰ろう、と思い絢人が散らばった衣服を集めていると、壮真が裸のまま戻ってきた。  壮真は「裸になるとさむいな、やっぱり」と言ってベッドに入ってきて絢人の隣に身を寄せると「寝ようか」と当たり前のように呟いて、絢人がせっかく集めた衣服をまとめてベッドの下に落としてしまった。 「あ、でも俺帰るよ」と絢人は言った。 「なんで? 外、寒いぞ。朝まで寝てけばいいさ。午前中は予定がないから、ゆっくり寝てていいぞ」そう言いながら、壮真は絢人の肩を抱き、電気を消そうとリモコンに手を伸ばしていた。壮真のすこし冷えた身体が絢人の身体に触れる。 「おやすみ」壮真はそう言って照明を消し、絢人の頭に自身の頭をこつんとぶつける。 「……おやすみ」そう言うしかなくなって、絢人は壮真に答えた。  でもまったく寝付ける気がしない。暗闇の中で目が冴えてしまった。なるべく身動きしないようにとは思ったものの、腕枕の体勢は慣れなくて何度も身じろぎしてしまう。 「眠れないのか」 「……うん。やっぱり俺、帰るよ」  こんな体勢で、ほとんど知らない男の横で寝られそうもない。それに、朝どんな顔をして会えと言うのだろう。 「・・・帰りたいなら無理には止めないけどな。でもどうやって帰るんだ?」壮真がリモコンを手探りして電気を点けてくれた。絢人は眩しさに目を瞬かせながら、立ち上がり衣服を拾って身に着けた。 「家はバーからすぐのところなんだ。一駅ぐらいなら全然歩けるし」実際は仕事場のバーからも徒歩では二十分以上かかるけれど、そういった方がいい気がして、絢人は少し嘘を吐いた。 「そうか、じゃあ送って行くよ」 「いいよ、自分で帰れる。大通りを戻れば駅だろ」 「でもまだ暗いぞ」 「大丈夫だって。俺、女じゃねえし」最後の部分を少し吐き捨てるように言うと、壮真は気まずそうに肩をゆらした。  玄関までついてきた壮真に、絢人は 「じゃあね、今夜は楽しかった」と言って壮真の唇にキスをして、あとは振り返らずに壮真の部屋を後にした。
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