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緊張しながら、まずは社長室の中へ入る。
喜多嶋「ここが、今日からお前のオフィスだ。まずはここが社長室」
喜多嶋社長自らが癖のない髪を揺らし、余裕のある笑みを浮かべて、僕を案内してくれたのだ。
ほのかなオードトワレの香りが鼻をくすぐる。
岡野「し、失礼します」
最初に目に飛び込んできたのは、大きな窓の外に見える高層ビル。
しかも、自分の立っているところも、それに負けないくらい高い。
少し膝が揺れ、一瞬、足がすくんだくらいだ。
岡野(わー、空が近い……さすが、最上階のワンフロアを借りきってるオフィスだけのことはあるなぁ……)
喜多嶋「眺めが最高だろう」
岡野「はい」
喜多嶋「だが、最高なのは眺めだけじゃない。今から、それを見せてやるよ。案内しよう」
岡野「お願いします」
ついていこうと歩き出したものの、右手と右足が一緒に出てしまった僕を見て、喜多嶋社長がくすりと笑った。
喜多嶋「そんなにかしこまらなくていい。ここは俺の会社なんだからな。自由な気風のいいところだ」
自信たっぷりに言うその視線はまっすぐで、こちらが飲みこまれるくらい力強い。
岡野(自由って、社内はスーツの人ばかりだよ。第一、社長からして……)
社長の喜多嶋彰は肌触りのよさそうなダブルのスーツを、さりげなく着こなしている。
足元はブランド物の靴で、上質なフォルムが質実剛健ならしさを出していた。
男らしい首元にはぱりっとアイロンの効いたえりが覗いていて、いやみがない。
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