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喜多嶋「さて」
喜多嶋社長が、僕の方へと歩み寄ってくる。
社長が動くたびに、ふわりとオードトワレとかすかに混じるタバコの匂いがした。
岡野(でも、いやな匂いじゃない……)
喜多嶋「どうだった?俺の会社」
自信たっぷりに言われ、僕は微笑んだ。
岡野「みなさん、格好いいですよね。ちょっと、気遅れしちゃうくらい……」
喜多嶋「そんなこと思わなくていい。お前も、俺が選んだラクルの一員なんだからな」
岡野「は、はいっ!!」
緊張しつつも、ぴしっと背中が伸びる。
喜多嶋「ははは。まだ、そんなに緊張してるのか?採用した俺の目を疑うなよ」
岡野「疑ってません」
ひかえめに言うと、にやりと口角をあげられた。
喜多嶋「俺のことはな。だが、自分のことは信用できないってわけだ」
岡野「あ……」
喜多嶋「今は自分に自信がなくても、この会社でお前を変えてやる。この俺がな」
喜多嶋社長は自分の顔に親指を向けながらそう言った。
岡野(変われる……のかな……?でも、変われるかもしれない……この社長の下でなら……)
胸にわいてくる期待感に、鼓動が速くなる。
喜多嶋「さてと……お前の住まいだが……」
岡野「会社に独身寮みたいなのがあるんですよね。家具もそろっている」
公にはされていないけれどそういうものがあると、喜多嶋社長から面接の時に聞かされていた。
だからほとんど身ひとつで、田舎から出てきたのだ。
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