番外編・勇気の無い獅子と桜髪の魔法使い

88/105
前へ
/1704ページ
次へ
笑えないのだ。長い間他人を寄せ付けなかったドロシーは上手く笑うことが出来なかった。 眉間に皺を寄せた仏頂面。愛想が無い。学がない。 そこでドロシーはある魔法を生み出した。それは、笑顔になれる魔法。 頬を緩ませ、口角を引き上げ、目を細める。顔の筋肉を魔法で動かして無理矢理笑顔を作る。そんな魔法。 自然に笑えていると見せかけられるようになった頃、ドロシーはロッパに居た。 だから驚いたのだ。ロッパで初めて会った少年に、「その魔法を教えてくれ」と言われた時は。 苛められていた少年、レリオット・ハイエースも笑顔の無い人間だったから。 結局は勘違いだったわけだけれど。それでもドロシーはレリオから目を離せなくなっていた。 だから演じた。あざとい演技を交えつつ、レリオにとっての理想の姉を。 しかし、ドロシーはどんどん変わっていった。 レリオから向けられる純粋な好意が素直に嬉しくて、もっと頑張りたいと思って。 いつからかドロシーは魔法が無くても笑えるようになっていた。
/1704ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46127人が本棚に入れています
本棚に追加