誇れ、雷鳥

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「……そうか」 ハニバルは懐かしむように空を見る。 「ニーナちゃん。あやつと儂が同期だと言うことは知っておるな?」 「知ってるけど?」 「昔話になるが、出撃前に、あやつはいつも呟いておったわ。『死にたくない、死にたくない』、とな。あやつは凄く臆病な奴じゃった」 その話はニーナも聞いたことがあった。戦場で誰よりも臆病だから、一方的に攻撃出来るスナイパーになったのだと。 「その言葉には儂も同意でな。すぐに逃げるものだから撤退将軍などと良く言われたわ」 軽く笑いながらハニバルは続けた。 「しかしな、ニーナちゃんが産まれた頃だったか。あやつは急に『死にたい』と言い始めよったのよ」 「え?」 「自殺願望ではないがの。『動けなくなるまで生きてベッドの上で家族が泣くところを見る最期はオレは御免だ。どうせなら戦場で、戦いの中でひとりぼっちで死にたい』、とな」 「…………」 「愚かな奴よ。あれだけ戦場が嫌いだった奴が、戦場に死に場所を求めるとはな」
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