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「……俺の夢をお前に託す。…だから、俺の分まで夢を叶えてくれ!!」
鬼塚さんはとても真剣な顔をしていた。
「ど…どういうことっすか?」
「……俺は…瑠美に迷惑ばかりかけた。……俺は仕事もせずにギター片手に作詞や作曲をしていた。……瑠美はそんな俺とは反対に一生懸命に働いていた。そして、瑠美はその一生懸命に働いて得たお金を俺に渡してくれて
「今は、これだけしかないけど、いつかおにちゃんが有名になってるみと一緒に住む家を建てようね!!」
って言った……けど、俺はそのお金を湯水のように使ってしまった。そして、気づいたときには瑠美が居なかった」
「鬼塚さん…」
「だから、俺は夢を諦める!!」
「!?」
「そして、瑠美を探して安定した職について、瑠美を幸せにする!」
鬼塚さんの目は真剣だった。
「鬼塚さん!!それでいいんすか!夢だったプロのミュージシャンをそんな簡単に諦めるんすか!!」
俺は怒鳴るような大きな声で言った。
「…まさお…夢より…大事なものあるか?」
「は!?」
「……俺はある!…だからこそ、夢を諦めた!!」
鬼塚さんに迷いはなかった。
「…お…俺は……ないです!!」
「そうか…」
「……」
暫く、沈黙が続いた。
「さて、俺はもう帰るぜ!!」
鬼塚さんは立ち上がり、椅子にかけていたコートを着た。
「お…鬼塚さん…」
「…今日、俺に歌ってくれた『23歳の別れ』……よかったぞ!!」
そう言うと、鬼塚さんは帰った。
……時刻は、深夜の12時を過ぎていた。
この日を最後に鬼塚さんはバイトに来なくなった。
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