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喜多嶋「……そうか……」
伸ばされかけた手はぎゅっと拳に変わった。
なにかを握りつぶすように……。
岡野(同じように、僕も気持ちを握りつぶさなきゃ……)
「引越はいつに、したらいいですか?」
喜多嶋「そんな顔を、見せるな」
岡野「僕は……これで、精いっぱいです」
喜多嶋「…………」
辛そうに眉を寄せられる。
喜多嶋「これが、お前のためなんだ。わかれよ」
岡野(僕の?)
「わかりたくないです」
そこは譲りたくない。
喜多嶋「…………」
そこで押し黙られた。
遠く離れた心の距離の分、沈黙が続く……。
喜多嶋「引越は急がなくていい。そうだな。ひと月後までには、準備を整えておいてくれ」
岡野「……ひと月……」
喜多嶋「早すぎるか?」
岡野「いえ、大丈夫です」
(たぶん……離れれば、気持ちの整理がつくはず……前は自分でそう思ってたんだから……そして、もうそれじゃあ忘れられないことも、あのときにわかっている。だけど、今は選択の余地がない)
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