第8話

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喜多嶋「……そうか……」 伸ばされかけた手はぎゅっと拳に変わった。 なにかを握りつぶすように……。 岡野(同じように、僕も気持ちを握りつぶさなきゃ……) 「引越はいつに、したらいいですか?」 喜多嶋「そんな顔を、見せるな」 岡野「僕は……これで、精いっぱいです」 喜多嶋「…………」 辛そうに眉を寄せられる。 喜多嶋「これが、お前のためなんだ。わかれよ」 岡野(僕の?) 「わかりたくないです」 そこは譲りたくない。 喜多嶋「…………」 そこで押し黙られた。 遠く離れた心の距離の分、沈黙が続く……。 喜多嶋「引越は急がなくていい。そうだな。ひと月後までには、準備を整えておいてくれ」 岡野「……ひと月……」 喜多嶋「早すぎるか?」 岡野「いえ、大丈夫です」 (たぶん……離れれば、気持ちの整理がつくはず……前は自分でそう思ってたんだから……そして、もうそれじゃあ忘れられないことも、あのときにわかっている。だけど、今は選択の余地がない)
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