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第9話
鷲見社長が出ていったマンションの部屋は、急に静かになった。
そこで、喜多嶋さんがふっと肩から力を抜く。
喜多嶋「これも……俺の、わがままだな」
岡野「どういう意味……ですか?」
喜多嶋「俺はお前には、しあわせになってほしいんだ」
岡野「僕は……今までだって、十分にしあわせでした」
喜多嶋「俺はお前に、部下以上の感情を持っているんだ」
淡々と告げられ、目を見張る。
喜多嶋「今だって、むちゃくちゃ触りたいと思っている」
岡野「っ!!」
(ちょっとびっくりしたけど、そうなっても嫌じゃないって思う……)
「いいです。喜多嶋さんには、なにをされたって」
喜多嶋「そんなこと軽々しく言うな」
少し大きな声でたしなめられた。
喜多嶋「一度、そうなったら、もう俺は歯止めを効かす自信がないから、言ってるんだぞ」
岡野「……それでも、僕はいいんです。僕は喜多嶋さんのこと」
喜多嶋「それ以上は言うな。なけなしの理性が吹っ飛ぶ」
岡野「どうして、そこまで……やっぱり、男同士がダメで……」
喜多嶋「そうじゃない。……俺は、お前に家族を作ってやりたいんだ。俺と一緒じゃそれができない」
岡野「あっ」
ようやく、はっきりと喜多嶋さんが何におびえていたのかがわかった。
岡野「それじゃあ、僕の……ために」
喜多嶋「そう言ってる。俺はお前が大事で、大事すぎて、手放すことを考えたんだ」
岡野「今は……今も、そう?」
流行る気持ちを突きつけるように聞く。
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