33人が本棚に入れています
本棚に追加
シャンシャン……シャンシャン……
頭の中で拍手の音が鳴り響く。
私は帰りの電車に揺られながら車窓に流れる景色をぼんやり眺めていた。
結局今日は予備校の入学手続きを完了させず、記入途中の書類はバックの中。
あれから日吉先生は事務員さんと話をつけて、入学書類を綺麗に折り畳んで私に差し出した。
「明後日のテストを受ける前に提出してくれればいいから。
もう一度じっくり考えておいで?」
そして出口まで見送ってくれた先生はバイバイと手を振りながら最後にまた重い言葉を口にした。
「逃げ癖つけるなよ?
将来カッコいい大人になれないからさ」
ーーー大切なものを見極めろ。
ーーー逃げ癖をつけるな。
短い時間だったけど、日吉先生は私に大切な言葉をいくつもくれた。
私にとって大切なこと。
ダイスケが大好きだという気持ちと
M大に行きたいという熱意。
その大切なものから目を逸らしたり逃げ出してはいけない。
どちらともちゃんと向き合わないといけないんだ。
そうしないと私は前に進めない。
どんどん流れていく景色が見慣れたものへと変わっていく。
やがて私が通っていた夢愛学園高校の校舎が小さくだけど見えてきた。
自分で行くと決めたのに1度も好きになれなかった学校。
入学してすぐに公立に進めば良かったと自分の選択を後悔し始め、学校に通うことが苦痛になった。
せっかく付き合えたダイスケがそばにいないことが寂しくて悔しくて、そんな気持ちをどうやって処理していいのか分からなくて、結局ダイスケと喧嘩ばかり繰り返してしまった3年間だった。
それでも大学こそは一緒に進もうとそれだけを励みに高校に通い、勉強をして、ダイスケと何度も仲直りしてきた。
最初のコメントを投稿しよう!