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息を弾ませながら私の前に立つダイスケをじっと見つめる。
今までにない大人びた姿が眩しかった。
「おめでとう。入学式だったんだね。
ダイスケ、凄くカッコいい」
濃紺でピンストライプの柄がとてもお洒落な細身のスーツ。
薄い空色のネクタイも爽やかでダイスケにピッタリだった。
ダイスケは照れくさそうに頭を掻きながら「ありがとう」と笑った。
そして、私の右隣にそっと腰を下ろす。
私はもう一度背筋を伸ばして大きくひとつ深呼吸して
「あの……」
「あのさ!!」
話し出そうとした私の声はダイスケの大きな声でかき消された。
私は面食らってダイスケに視線を向ける。
「僕もカナに話があった。先に話したい」
思い詰めた真剣な表情でダイスケが私の右手をギュッと握る。
「離さないから」
「ダ……ダイスケ?」
「カナを離さないから。別れるとか絶対に納得できないから」
ダイスケの手に更に力が籠められて、私はそのまま固まってしまった。
「今日の入学式で思ったんだ。
僕はやっぱりカナとあの大学で一緒に過ごしたいよ。
1年くらい待てるから。僕ちゃんとカナのこと待ってるから。
だから、カナも別れるとか諦めるとか言わないで。
次の春を2人で笑顔で迎えようよ」
私の頬を涙が濡らす。
本当は両手で拭わないと追い付かないのにダイスケが右手を離してくれないから左手だけで一生懸命拭った。
「ま……また約束…破っちゃっ、たのに、い、いいの……?」
「いいもなにも……。約束はまだ続いてるでしょ?
僕たちは同じ大学に通おうって約束したんだ。
だから、僕は待ってるよ」
「ダイスケぇー……」
私は力一杯ダイスケに抱きついた。
「ごめっ……ごめんなさいー……。
私、ダイスケに、いっぱい…ひどいこと言った……」
ボロボロ泣きながら必死に謝った。
そんな私の背中をダイスケはよしよしと擦ってくれる。
「大丈夫だよ。カナのヒステリーにはもう慣れてる」
「ひどっ……」
おどけたような口調に漸く笑って、私はダイスケの肩をぱしんと叩いた。
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