NEXT Spring

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「はい。これが入学手続きの書類ね。 必要事項を記入してくれる? それとこれに授業料の振込用紙とこの予備校の色々な説明書類が入ってるから帰ったら親御さんに渡してくださいね」 機械的な説明と共に差し出された1枚の紙切れとボールペン。 それに大判の封筒がひとつ。 「……これ全部書けばいいんですか?」 私はため息を必死に飲み込みながらボールペンを手に取った。 住所、氏名、電話番号、出身高校……いくつもの個人情報を書面に落とし込んでいく。 やたらと記入箇所の多い書類に辟易した。 こんなに自分の情報を晒さないとこの学校に入れてもらえないのなら、自宅浪人でも良かったかな、という考えが頭を掠める。 しかし、この予備校の難関校合格実績をみてここに通うことに決めたのだからと自分に言い聞かせた。 「めんどくさい…」 それでも堪えきれずボソッと本音がこぼれた。 同時に鐘の音が校内に響き渡る。 午前の授業が終わったらしい。 ふと書類を書く手を休めて振り返ると、2階の教室からぞろぞろと学生たちが事務室のある1階に下りてくるのが見えた。 「ねー、ねー、新婚旅行の土産話とかないのー?」 「そうそう。仙台と松島行ったんでしょ? その渋い感じいかにも日吉先生らしいよねー」 「何だよそれ。俺が年寄りくさいみたいに」 ひときわ賑やかな団体は、1人の男性講師を取り囲む女子学生たち。 なんだか皆ずいぶん明るいな。 今は春期講習の時期だから全員現役高校生なんだろうけど。 何でそんなに能天気にしていられるの? 後で泣きを見てもいいの? その団体に嫌悪感を覚えつつ、何故か目を離せずにいたら、講師だけが生徒にひらひら手を振ってこちらに歩いてきたので慌てて目線を手元の書類に戻した。 後は志望進路について書いて……と。 文系or理系? もちろん文系。 次が具体的志望大学……。 私の手がそこでピタリと止まってしまった。
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