NEXT Spring

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「沢野さん。これ旅行のお土産。 事務室の皆さんで分けて」 「わぁ、ありがとうございます。 ふふ。笹かまぼこですね? 旅行どうでしたか? 松島はーーー」 「あのー、すみません」 楽しそうに話している講師と事務員さんには悪いけど、思わず声を発していた。 「あー、はい。なんですかー?」 すぐに事務員さんが来てくれたけど、その顔は不愉快さが隠しきれてなかった。 講師との会話を邪魔してしまった私を明らかにウザいと思っている。 沢野さんと呼ばれた事務員さんがこの講師に好意を抱いているのは一目瞭然だった。 だけど、新婚さんなんだよね?この人。 私はチラリと右側へ視線を移す。 確かに講師の男性はとてもキレイな顔立ちの人だった。 くっきりとした二重瞼にスッキリ通った鼻筋。 髭の剃り残しなんて全く無さそうなツルツルの肌。 講師にしておくには勿体ない、アイドル並みのルックスの持ち主。 ただ、背が低い。 私と同じくらいだから165くらい? 惜しいなぁ。 でも、そんなサイズ感も『かわいー』とか言われてとにかくモテそうだ。 その講師の先生は私に話の腰を折られてしまったことを気にするでもなくその場で手持ち無沙汰にしていた。 「あの、この志望大学を具体的にって学校名を明確に記載しろってことですか?」 「そういうことになりますね。 第三志望まで学校名を書いてください。 クラス分けは明後日の実力試験の結果で決まりますけど一応志望校も参考になりますので」 「どうしても書かなきゃダメですか?」 「はい?」 「あー、いいです。いいです。 ちゃんと書きます。ごめんなさい」 訝しげな事務員さんに頭を下げて改めて書類に向き直る。 えっと、どこにしようか? 普通に考えたら今年の第一志望校だったM大が妥当なんだろうけど…。 同レベルのY大かな? ああ、T外大でもいいかも。 何か書かなきゃと思うのにどうしても手が動かない。 私はどこに行きたいの? 私はこれからどうしたいの? 私は……私は…… 「…………分かんない」 パタッ……パタッ……。 どんなに考えても答えを出せない私の両目から涙が零れ落ちた。
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