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「えっ? えー?!」
突然泣き出した私に事務員さんが悲鳴じみた声をあげる。
その声に反応した男性講師が私たちの方に歩み寄ってきた。
「あーあ。沢野さん何生徒泣かしてるの。
あ、生徒じゃなくて入学希望者か」
「えっ?やだ!違いますよ!」
「いやっ、違うんです!!」
二人揃って同時にブンブン首を振ったら、それが面白かったのか講師がブッと吹き出し、私の手元の書類を然り気無く自分の方に引き寄せた。
「町田 佳菜子さん……ね。
へー、夢愛学園出身なんだ。
じゃ、社会科の大政先生知ってる?」
「はっ? ……はい。習ってましたけど」
突然思ってもいない質問をされて驚いたら涙も引っ込んだ。
社会科の大政先生は、若くて、背が高くて、顔もよくて…何もかも持ち合わせた学園内で抜群の人気を誇る教師だった。
「そうなんだ? あの人元気にしてる?
俺ね、大学のゼミであの人の1年後輩」
「はぁ……」
まだ戸惑い気味で目をぱちくりさせる私に男性講師は爽やかに微笑んで言った。
「そう言えばまだ名乗ってもいなかったね。
俺、日吉 清海(ヒヨシ セイカイ)です。英語担当。
よろしくね?」
その鮮やかな笑顔に
「ども……。町田、です」
私も自然に頭を下げていた。
「志望校決まってないの?」
日吉先生は私が書き途中の書面を綺麗な指先でトントン叩きながら首を傾げた。
「別に難しく考えなくてもいいよ?
どの程度のレベルを目指しているかの確認だから。
今年の第一志望校はどこだったの?」
「……M大」
「おお。いいとこ目指してたんだね。
それなら来年もそこを目標にーーー」
「いやっ! ……やっぱりもうM大には行きたくありません」
日吉先生の言葉を遮ってそう断言したら、また涙が溢れそうになって私は唇を噛み締めた。
「やっぱり?何で?」
「それは……」
問い返されても答えられず俯いてしまった私の手が急にグイッと引かれる。
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