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「ちょっとあっちで話そうか?」
グイグイ引っ張られて少し離れたドリンクコーナーに連れていかれた。
「いやっ……あのっ……」
突然の展開に焦りまくっている私を日吉先生は自動販売機の前に置かれたベンチに強引に座らせた。
いくつかの自動販売機とベンチだけが置かれたスペースはエントランスからも事務室からも死角の位置で、そこに今は私と日吉先生の2人きり。
「さて、何飲む?」
「いや、何もいらない……です」
「そんなツレないこと言わないでよ。
コーヒー飲める?」
そこまで言われたら固辞するのも大人げないのでこくんと頷いた。
ガコン、ガコンと缶飲料の落ちる音が立て続けに大きく響く。
「ーーーはい」
差し出されたのは微糖の缶コーヒーだった。
小さく頭を下げて受け取った私に美しく微笑んで、日吉先生は私の右隣に腰掛けた。
「俺さ、先週いっぱい休暇もらってて今日が久々の職場復帰なの。
何か疲れちゃった。まだ午後もあるのにどうしようね?」
先生はそう言ってからシャカシャカ振っていた缶コーヒーをプシッと開けて一気に喉に流し込んでいく。
「あ……、新婚旅行、ですか?」
「うん。って何で知ってんの?
もしかしてさっき生徒たちと話してるの聞いてた?」
「勝手に聞こえてきました」
「そっか」
殆ど空になったらしい缶を弄びながら先生は自分の両膝に肘をついてリラックスしている。
そんな先生の様子を見ていたら私の高ぶっていた感情がすーっと凪いでいくのを感じた。
何だろう? 気持ちが丸くなるようなこの感じ。
「あの……。おめでとうございます、って言った方がいいですか?
まだ生徒でもないただの行きずりの者ですけど」
私の言葉に先生が小さく吹き出した。
「別に。町田さんって面白いね。
ねえ、何でM大に行きたくないの?」
すっかりお互いが和んだところで突然本題を切り出された。
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