第一章 ミロダクトの村

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リーネを抱えた覆面の男は、気だるそうな口調で俺に向かって話しかける。 「そこの剣について知っていることを洗いざらい吐け。……こいつを殺されたくなかったらな。」 少し掠れた低い声で言われた台詞に、俺は肩を竦ませた。リーネは恐怖の為か何も言えずにただただ涙目で震えている。 ライアンは棒切れを握りしめるが、人質を取られているので、どうしようもなく立ちすくんでいた。 「け、剣ってこれのことですか?」 俺は男の言っていることがよくわからなかったので、自分の手作りの木刀を恐る恐る見せてみる。もしかしたら、俺が作った剣は何か特別な効果があるのかもしれない! しかし、そんな淡い幻想も覆面の男によって即座に否定された。 「んな訳あるかぁっ!!そこの祭壇の剣だ!神に封印されし『業火の剣』。 ミロダクトの村人のくせに、知らねえとは言わせねえぞ。」 男はリーネを抱えている腕に力をさらに込めながら、俺の背後の数メートルにある祭壇を指差した。 「……お兄ちゃん。」 リーネが苦しそうにしていたため、俺は腰の木刀に咄嗟に手をかけた。だが…… 「おっと、それ以上動くなよ。動けばどうなるかわかるな?」 男はいかにも悪役がいいそうな事を言った。 リーネの首筋にダガーナイフをあてがわれたままでは何もできない。 何とかしなければ、という焦りだけが募る。 彼が言った方向を見てみると、祭壇の上に、確かに一本の剣が置かれていた。埃をかぶったいくつも鎖に絡まれ、かなり古びている。 確かに何となく凄そうな剣だけど、村の大人たちはやたらとこの祠のことを隠したがるから、俺はこの剣が存在する事すら知らなかった。 そんなだから、男の質問になど到底答えられる訳がない。 「本当に何も知らないんです。すいません。 ……だけど、リーネを離してくれよ!」 初めて対面した殺意に恐怖を覚えつつ、俺は懇願する。 だけどそれも虚しく、彼は薄く嗤ったように見えた。 「無理な相談だな。実をいうと、どっちにしろ俺は最初からお前らを消すつもりだったし。」 覆面の男がそう言った直後、俺は頭の中が真っ白になってしまった。
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