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「それ以上近づくでない!」
「……え?」
村長は俺に杖を突きつける。くすんだ碧眼の瞳が険しく俺を見据えている。
村長にまではっきりと拒絶されたことに、戸惑いを隠せなかった。
どうして?そう聞く前に、村長は語りだした。
「お前は自分が何をしでかしたか、分かっておらんようだな。わしや村の者が、頑なに隠そうとしたことが仇になったのかもしれぬ。
…今から話すことを良く聞きなさい」
長老は、知っている限り俺に話してくれた。
はるか遠い昔、今俺が持っている剣は、心正しきものがこの世の罪を裁くため、神によって地上に送られた。 だけど、あまりに絶大な力を持つこの剣は、最初の持ち主が亡くなった後、邪な権力者達の手に渡り、己の欲の為にしか使われなかった。
そのせいか、次第に剣を持った人の心が奪われ、その人はかたっぱしから人々の命を奪い、全てを焼き尽くした。その人が倒されても、権力を欲しがった人が同じような事を繰り返した。
誰もその剣を使いこなすことができず、世界には争いが絶えなかった。
また、大地はみるみる焼き野原となってしまった。
そこで神様は、信仰心が厚く、争いも避けていたこの村に剣を預けた。
剣を封印しても人間が過ちを続けるなら、神の裁きが下るという言葉と共に。
そして、荒廃した大地には緑が戻り、いくつかの国が誕生して平和が生まれた。
この辺も治めているバルクレイ帝国の皇帝は、剣の封印に理解を示し、様々な援助をしてくれていたそうだ。それは現在の戦争好きな皇帝の代になってからも続いている。だからこそこの村は平穏を保っていた。
なのに、その平穏を俺が壊してしまったらしい。
長老は俺の右腕をやみくもにつかむと、包帯を一気に解いた。
「何だよ…これ」
見ると、炎に焼かれたはずの腕に火傷の跡は残っておらず、その代わりに黒い刺青のような紋章が肘から手のひらにかけて刻まれていた。
俺は思わず言葉を失う。
周りの村人も息をのんだ。
「……『業火の剣』を引き抜いた罪人の証じゃ。これは―――」
「何これ超かっけえ!!」
何か、いかにも物語に出てきそうな展開に、一人で盛り上がった俺はガッツポーズをした。
「話を聞かんか馬鹿たれっ!!」
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