第一章 ミロダクトの村

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「洞窟を崩壊させるほどの力じゃぞ。アレクに業火の紋が出ている限り、いつかはみな殺されてしまう。わしはそれを避けたいのじゃ。」 村長の言ってることは確かにわかる。今は何ともないけど、これからもずっととは限らない。 「この子なら大丈夫です!お願いします。私の元でいさせてください!」 母さんは深々と頭を下げて懇願してくれた。だけど、村人達はそんな母さんを冷たい目で見ていた。 「もし俺たちが殺されたらどうするんだよ…。」 「そうそう、家畜だって殺されちゃ敵わん。」 「色んな奴らが剣を奪いに村を荒らすかもしれんぞ…。」 ひそひそと話をする声が俺にも聞こえた。 「…俺、出ていくよ。」 覚悟を込めて発したその一言に、母さんは目を丸くした。 「俺が出ていけば、みんなは平和に暮らせるんだろ? 母さんやリーネとライアンがみんなと揉めるのは嫌だし。 別に殺される訳じゃ無いんだから、いつかまた会えるよ。」 心に湧き上がる不安を抑え込み、まるで自分に言い聞かせるように、なるべく笑顔で話す。 すると、村長はほっとした様子で業火の剣を鞘ごと丁寧に両手で持った。 「わかった。ならば、この村の奥の聖なる山、ミロダクトの山頂に向かって真っすぐ歩け。昔、神がそこに現れて剣を封印したそうだ。そこに辿り着けば、神がお前を許し、その業火の紋も何とかなるかもしれん。」 「本当ですか!?じゃあ、さっそく準備しないと!!」 その紋章が消えるなら、また村のみんなが俺を受け入れてくれるなら…! そう思い、家へと駆けこもうとした俺の手を、村長がつかむ。 「待て。神は俗物を嫌うから、この剣以外は何も持って行ってはならん。己の身一つであの山頂を目指すのじゃ。」 俺は村長がしわだらけの手で指差した山頂を見上げる。ミロダクトの山はうっそうと生い茂る木々を携え、堂々と立ちはだかり、その頂は雲さえも貫いていた。 …これは大変そうだなぁ。だけど、俺の決意は変わらない。 「じゃあ、俺頑張ります!」 「アレクっ!!」 村や、母さんの為に決意をしたのに、母さんは悲鳴のような声を上げた。
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