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どこかの世界の果ての果て、数多の人間が祈りを捧げ、崇めたてる『神』が玉座に腰掛けていた。
顔には深いしわが刻まれ、白い顎鬚は長く伸び、また白い髪の毛も長く伸びていて、ゆったりとまとめられていた。
纏っている白く長い法衣は天上の風に煽られて緩やかに舞っていた。そんな彼を、太陽は黄金の光で照らし出す。
人間の遥か上空、雲の上に君臨する彼は、確かに神と呼ぶに相応しかった。
何を思ったのか、彼はゆっくりと立ち上がると、手を地上にかざしたのだった。そこに光の粒子が収束し、一本の剣が現れる。彼はその剣を鞘から抜いた。
血で汚れたその剣に彼の顔が映る。
「……人の子とは、愚かなものよのう」
しわがれた声で呟くと、剣を鞘に戻した。
そして、剣に語りかけるように続ける。
「人間が繁栄し始めた頃、罪深き者を裁くために冥界の女神、ハーデスより授かりしお前を地上に預けたが、一体誰がお前を正しく使ったのだろう。
欲にまみれた者の手から手へと渡り、この世に何度の乱世を引き起こしたことか」
彼は嘆くように言うが、その声は地上へは届かない。
そこではなお、多くの国が戦火を交えていた。
さらに彼は語り続ける。
「……そしてお前もまた、ただ利用されるだけでは気が済まなんだ。
お前を手に取った欲深い人間の心を食い潰し、ありとあらゆる人を、魔物を、そして豊穣なる大地を焼き払ったのだろう」
そうして、彼は瞳に鋭い光を宿しながらその名前を呼ぶ。
「……のう、『業火の剣』よ。もはや人間はみな罪を犯しておる。お前の仕事ももう終わりにしようではないか。
ミロダクトの山の麓に深い信仰心を持つ村がある。
そこで時が来るのを―――欲望と憎しみの鎖が人間を縛り付け、この世界が終焉を迎えねばならぬ時を待つが良い。
その時はわしがお前を迎えに行こう。……この世に神の裁きをもたらすために」
そう言い終えると、彼は『業火の剣』を地上に封じたのだった。
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