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勇者。
それは神が創りし聖剣エクスカリバーを抜くことができる人間で、強くて、かっこよくて、悪い奴らをやっつける正義の味方だ。
村の教会で勉強を教えてもらうついでに、俺はいつも勇者などの正義の味方が出てくる本を借りていた。
彼らはいつだって仲間に囲まれ、勇敢に戦い、多くの人達に感謝され、尊敬されていた。
......いいなぁ。
俺が住んでいるのは山奥の村だから、いっしょに冒険できる歳の近い友人はいないし、そもそも剣も持っていない。
俺は記憶喪失でもないし、
お金持ちでもないし、
魔術も使えないし、特別頭がいい訳でもない。
こんな無い無いづくしの俺だから、せめて剣の練習くらいはしようと思い、今はナイフで木刀を作っている。
温かな雰囲気を醸し出すログハウスの一室である自分の部屋で、ひたすら木の枝を削っていた。
でもどんな物語より一番憧れるのは、村のシスターが語ってくれる勇者ジャスティスの話だ。『正義』の名にふさわしい人だと思う。
もともと帝国騎士団出身らしいけど、聖剣を手にし、勇者となってからは自分でギルド(同じことを目的とする集団のようなもの)を立ち上げ、帝国軍と共に魔王軍を撤退させたんだ。
その時に魔王と一騎打ちになり、見事倒したというのだから、驚きだ。
すぐに次の魔王が即位したらしいけど。
魔王軍が撤退した後もジャスティスはギルドの仲間と共に、かつて皇帝ゴルギオスに敗れた国の復興支援までしているのはさすがだと思う。
弱きを助け、強きをくじく。
まさに理想のヒーローだ。
足元に木屑をまき散らしながら、延々と削る。
ようやく形が整い、表面が滑らかになってきた。
俺もいつかそんな風になれたら、
きっと――――
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