993人が本棚に入れています
本棚に追加
「うわぁーっ! 兄ちゃんすげえっ!!」
「ちょっと待て! 危ないって!!」
俺がナイフで木刀を完成させようとしていると、弟のライアンがいきなり現れたのだった。
ライアンは鳶色の短髪を持つやんちゃ盛りの十歳の少年で、いたずらしたり、勝手に村の外に出たりしては、いつも母さんに怒られている。
俺がナイフを鞘にしまうと、もうすぐ完成の木刀をひったくったのだった。
「あ、返せよ! 作ったばっかりなんだから」
「やーだよ! ......剣、かっこいいなぁ。ねえ兄ちゃん、俺にも作ってよ!」
ライアンは手に取った木刀をしげしげと眺めながら言った。褐色の輝く目が、木刀をなぞる。
「だめだよ。お前この間作ってやった剣で花瓶割っただろ」
俺が木刀を取り返して言うと、ライアンは項垂れた。
「......うっ」
「これは俺の剣の練習用なんだからな」
そう言い切ると、俺は木刀を軽く振った。
「……」
やはり、軽い。普段畑を耕す時に使う鍬や鋤のような重みはない。
「そういえばさぁ、兄ちゃん16だろ? 来年なら帝国騎士団に入れる年だけど、試験受けるんだろ?」
「うーん......。」
弱ったなぁ、昔のジャスティスと同じように騎士にはなりたいし、その為に自主練習もしてる。
その時、俺の部屋のドアが勢いよく開け放れた。
「アレク! あんたまたそんな馬鹿なことを言ってたのかい!」
母さんが狭い俺の部屋にずかずかと入り込むと、
ベシっ!
と、兄弟揃って顔をはたかれてしまった。
「人様を傷付けてお金を貰うだなんて最低よ! 汗水垂らして、美味しいご飯が食べれたらそれで十分だろう!」
正しい事を言われているのは確かだから、俺はふてくされる事しか出来なかった。
母さんは普段は優しいけど、数年前の戦争でおじさん......お母さんのお兄さんがまだ帰ってきてないから、帝国騎士団に入りたいって言ったらすごく怒られるんだ。
でも、カッコいいんだよなぁ。勇者ジャスティス!
俺が実際に見た訳じゃ無いけどその勇猛果敢な戦いっぷりは伝説として、帝国中に広まっている。
ま、こんな辺境の村に広まっているくらいだしね。しかし、そんな思いも
お母さんには届かないらしい。
母さんは、さっき作ったばっかりの木刀引ったくると、なんと膝でへし折ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!