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「母さんひどいよ! せっかく作ったのに……」
床に落ちた木刀だったものを拾い集めながら、俺は母さんを見上げる。
そりゃあ、いっぱい隠し持ってはいるけど、今日はすごく上手くいっていたのに。
「私はあんたたちが心配だから言ってるの。わかってちょうだい」
母さんは優しい声音でそう言いながら、さっき木刀をへし折った手で俺達の頭を撫でた。
こうなってしまうと抗いようがない。
大切に思ってくれている事をひしひしと感じる。
ライアンはやっぱりむくれたままだったけど。母さんに頭を撫でられて、少し照れくさそうにしていた。
しかし、母さんは俺達が大人しくなったと見ると、
「それじゃ、さっさと畑を耕しておいで! ライアンも手伝うんだよ!」
「「ええーっ!」」
俺達のブーイングに耳を貸すことなく、母さんは俺に鍬を、ライアンにスコップを手渡した。
母さんは仁王立ちで腰に手を当てながら、庭の畑を指差した。
「働かざる者、食うべからず!!
ほら、リーネはもう草引きやってるんだから、行った行った!」
そう言いながら、俺とライアンを強引に家から追い出した。
玄関から外にでると、妹のリーネがプチプチと草をしゃがんだ状態で抜いていた。小さな背中をこちらに向けたまま、黙々とお手伝いをしている。
「リーネ、えらいなぁ」
俺が感心したようにつぶやくと、リーネはすぐさま振り向いた。
「お兄ちゃん達が遅いんじゃない!早くしないと日が暮れちゃうよ」
眉間にしわを寄せながらむくれる様はライアンとそっくりだけど、迫力はリーネの方が勝っている気もする。
末っ子ながらまじめなリーネは、鳶色の髪を動きやすいように束ねており、こめかみからにじむ汗が、彼女の懸命さを物語っていた。
そして、まだ小さな指を畑に向け、俺たちに指示を出す。
「ほら、この辺の草はもう抜いたから、後は耕してよね!」
……まだ8歳の妹に指図される、16歳の俺ってなんなんだろう。
少々いたたまれない感じもするが、仕方なく作業にとりかかることにした。
リーネにさぼっていたと告げ口されては、本当に晩御飯抜きになりかねない。
俺は鍬を持ち上げて下すという動きを、何度も何度も繰り返したのだった。
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