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ここ――ミロダクト山の麓の村は、豊かな自然に囲まれている。
あまりにも自然が豊かすぎて、村を訪れるような人は、年に一回の祭りの時に来る司祭様達を除いてめったに見かけない。
だけどその分村人同士の関わりが深く、みんなが家族のように温かかった。
「おう。アレク、今日も頑張っているな!」
こんな風に、通りかかった近所のおっちゃんが話しかけてくれたりする。
「うん! おっちゃんは?」
俺は作業をする手を止めておっちゃんの方を振り向いた。気まずそうに黙っているのをよくよく見ると、顔が赤くなっているのがわかる。
「あ~。さては昼間からお酒飲んでたんだろ」
「げ……。かみさんには内緒な!」
「しょうがないなぁ......」
「ありがとよ。たすかったぜ!」
そう言うと、おっちゃんはベルトに収まりきらないお腹をさすりながら、通り過ぎて行った。
再び作業を始めようとした時、突如、リーネの悲鳴が聞こえた。
俺はとっさに鍬を投げ出し、リーネのいる方へ向かった。
「どうしたんだ!?」
リーネは俺に気が付くと、目に涙を溜めながら駆け寄ってくる。
「お兄ちゃんっ!!」
しかし、俺が耕したばかりの地面に足を取られて、派手に転んでしまった。
自分で起き上がり、片方だけ脱げてしまった靴を履きなおすと、恨めしそうに地面を踏みしめて平にする。
「怪我はしてない?」
あわてて駆けつけて、リーネのスカートについた土を払う。
「もう大丈夫かな?」
そう尋ねると、リーネは俺にしがみついた。頬を膨らませながらぽつりとふてくされたように呟く。
「……大丈夫じゃない。おんぶ」
「しょうがないなあ」
俺が背中を向けてしゃがむと、リーネは飛びついた。そして、俺は後ろに手を回し、膝の力を入れて立ち上がる。
……重くなったなぁ。昔はすごく軽かったのに。
リーネはほっとしたのか、小さくため息をついた。
「そういえば、さっきの悲鳴は何だったんだ?」
何か危ないものがあったらいけない。そう思って聞いてみたが、リーネが答えるより早くわかった。
「兄ちゃん! 見てみてよ!」
ライアンが手を土まみれにしながら、顔をほころばせて両手を器のようにして差し出してきた。
俺が覗き込むより早く、耳元でリーネの絶叫が直接俺の耳に響く。
「嫌だぁぁぁーーーーーっ!!!」
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