第一章 ミロダクトの村

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ここ――ミロダクト山の麓の村は、豊かな自然に囲まれている。 あまりにも自然が豊かすぎて、村を訪れるような人は、年に一回の祭りの時に来る司祭様達を除いてめったに見かけない。 だけどその分村人同士の関わりが深く、みんなが家族のように温かかった。 「おう。アレク、今日も頑張っているな!」 こんな風に、通りかかった近所のおっちゃんが話しかけてくれたりする。 「うん! おっちゃんは?」 俺は作業をする手を止めておっちゃんの方を振り向いた。気まずそうに黙っているのをよくよく見ると、顔が赤くなっているのがわかる。 「あ~。さては昼間からお酒飲んでたんだろ」 「げ……。かみさんには内緒な!」 「しょうがないなぁ......」 「ありがとよ。たすかったぜ!」 そう言うと、おっちゃんはベルトに収まりきらないお腹をさすりながら、通り過ぎて行った。 再び作業を始めようとした時、突如、リーネの悲鳴が聞こえた。 俺はとっさに鍬を投げ出し、リーネのいる方へ向かった。 「どうしたんだ!?」 リーネは俺に気が付くと、目に涙を溜めながら駆け寄ってくる。 「お兄ちゃんっ!!」 しかし、俺が耕したばかりの地面に足を取られて、派手に転んでしまった。 自分で起き上がり、片方だけ脱げてしまった靴を履きなおすと、恨めしそうに地面を踏みしめて平にする。 「怪我はしてない?」 あわてて駆けつけて、リーネのスカートについた土を払う。 「もう大丈夫かな?」 そう尋ねると、リーネは俺にしがみついた。頬を膨らませながらぽつりとふてくされたように呟く。 「……大丈夫じゃない。おんぶ」 「しょうがないなあ」 俺が背中を向けてしゃがむと、リーネは飛びついた。そして、俺は後ろに手を回し、膝の力を入れて立ち上がる。 ……重くなったなぁ。昔はすごく軽かったのに。 リーネはほっとしたのか、小さくため息をついた。 「そういえば、さっきの悲鳴は何だったんだ?」 何か危ないものがあったらいけない。そう思って聞いてみたが、リーネが答えるより早くわかった。 「兄ちゃん! 見てみてよ!」 ライアンが手を土まみれにしながら、顔をほころばせて両手を器のようにして差し出してきた。 俺が覗き込むより早く、耳元でリーネの絶叫が直接俺の耳に響く。 「嫌だぁぁぁーーーーーっ!!!」
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