お前に拒否権はない

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「信じられないっ!!」 怒りをこめた声と共にくぐもった打撃音が、大小様々なぬいぐるみであふれかえるパステルピンクの部屋に響いた。あたしは落ち着いたミントグリーンのベッドカバーのベッドの上で、白い枕を殴るのをやめた。 帰ってきてからずっと叩いていたんだもの、当たり前か……。そんなことを頭に思い浮かべながら、重力に身を任せて後ろ向きに勢いよく倒れこんだ。 柔らかい掛け布団があたしの体を受け止めてくれたけど、同時にため息がこぼれるのだけは止めてくれなかった。 どうしてあたしが行かなきゃいけないんだろ、って何度も頭をよぎるけど、結局一度もその結論は出ずじまい。中途半端だと、何でも白黒付けたがる兄さんに知られたらきっと怒られるだろうな……。 本日何度目か分からないため息をこぼしたあたしは、体を起こしてベッドから降りた。ベッドの脇にそろえてあったクマの顔が付いたスリッパを履くと、部屋の中央に配置したお気に入りの足の短い丸テーブルの上に置いた書類を手に取った。 「やっぱり、何度見返しても事実は変わらない、か……」 再び大きなため息を付いてその書類の文面に視線を落とすと、気持ち的に重い何かがあたしにのしかかってくるみたい。 その書類の上部には短く一言『Dragoの現状に関する実地調査』と書かれていた。その下の行には、対人班所属春咲朱音にその調査を任せるという趣旨の文が長々と形式ばった書式で書かれている。 正式な命令書なんてものはたいていこういうものだって分かってはいるけど、ようはドラゴなんて信用できないと公言しているあたしに『ドラゴの様子を実地で見て考え直せ』ってことなんでしょ? ドラゴだなんて、小さい頃からろくでもない噂しか聞いたことがなかった。だからこそ母さんや父さん、そして兄さんから、ティーグレに対抗する為と言う名目の元、そんなドラゴと協力関係を築いたカーネに入ることを反対されたのは二年前のこと。 あたしにとっては、ギャングもマフィアも基本的には変わりない組織。幼い弟が突然姿を消したあの日から、あたしはゆーと*をどんな手を使っても取り戻してみせるって心に決めたんだ。だからこそ、カーネに所属していれば何か情報が集まるかもと考えたけど、現実はそこまで甘くなかった。 *朱音の弟で11年前から行方不明。現在ユトとしてTigreの医療・研究部隊に所属。
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