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「……だからって、どうしてあたし一人で行かせるのよ!!」
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その日の昼休み
「朱音さん、ちょっといいかしら……?」
書類仕事に一段落着いて一息ついていたあたしに声をかけたのは、直属の上司であるピリス班長だった。対人班を率いるピリス班長はよく失敗する私を励ましてくれたりと、部下に優しいことで有名な人(正確にはセイレーン)だ。噂によると、元はお嬢様だったらしいのだけれどそれ以上は詳しく知らないし、そういうことはあんまり詮索するもんじゃないと思ってる。そういうことに関しては、さすがに話してくれないし聞きづらいし……。
「朱音さん、聞いていますか?」
「は、はい!ピリス班長、何ですか?」
あたしが慌てて立ち上がると、ピリス班長は少し呆れたような顔をしてこちらを見ていた。ピリス班長の漆黒の瞳は、あたしの様子がおかしいから不安だ、と訴えかけている。いつも部下のあたしを心配してくれるのは嬉しいけど、あたしはそこまで子供じゃないですよ……ピリス班長。
「あの、ピリス班長?今請け負っている仕事は、今日中に終わりますが……」
「それはよかったです、朱音さん。けれど、用はそのことじゃないの。ホムラさん……じゃなくて元帥が、あなたを呼んでいましたけど何かしたのですか?」
ピリス班長の言葉が耳に入った瞬間、ほんの少しだけ思考が停止した。幻聴……じゃない、よね?というか、幻聴であってほしい。あたし、元帥に怒られることに今は心当たりすらない。そんなことを考えながら頭を抱えてると、ピリス班長は苦笑いしながら私の肩をやさしく叩いた。
「冗談ですよ。今回は怒る為に呼び出したのではないと思いますよ?今日はいつもより機嫌がよさそうでしたから」
「そ、そうならいいんですが……。でも、元帥の機嫌に善し悪しだなんてあるんですか?」
「ありますよ。でも、早く行かないと怒られますよ?」
口元に手を当てて上品に笑うピリス班長は女のあたしが見てもとても綺麗だと思うけど今は見とれてる暇なんてない!仕事上の失敗以外で怒られるのはもう二度とゴメンよ!!
慌ててピリス班長に一礼してから急いで元帥の元へ向かったのだけど、このときあたしは元帥が何でわざわざ呼び出したのかだなんて考える余裕なんてなかった。けど、その余裕のなさがどういう結果をもたらすか、ということにはまだ気が付いていなかった。
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