お前に拒否権はない

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恐る恐る声をかけると、元帥は無言で机に置かれていたとある一つの書類を差し出した。訳も分からずその書類を受取ると、あたしはその全てに目を通し始めた。その過程で一番最初にあたしの目に飛び込んできたのは、『Dragoの現状に関する実地調査』という文字だった。 あたしの頭に疑問が一つ浮かんだ。どうして、これをあたしに渡したのだろうという些細な疑問だったけど、たんに渡す書類を間違えたのだろうと思うことにした。そうでなければありえないもの、この仕事内容はどう考えても仕入れ班の担当のはずだもの……。 カーネは五つの班に分かれてそれぞれの仕事をしているのだけど、中でも仕入れ班は情報と武器の仕入れを担当している。こういう実地調査も情報収集の一環だから仕入れ班の仕事のはずで、あたしの所属している対人班に回ってくるような仕事ではないはず。あたしが所属する対人班の担当の仕事は、ドラゴと一緒にティーグレの対策を立てることだから。 「あの、元帥……。この書類ですが、あたしに渡すものじゃないんじゃないですか?」 そう言って元帥に書類を渡そうとすると、元帥はちらりとその書類の上部を見たが受取ろうとしなかった。これで合っているということなのかな……。ここでまた、あたしの頭に新たな疑問が一つ浮かんだ。間違いじゃないなら、なぜ仕入れ班の仕事を対人班のあたしに渡したんだろ……。 きっと、読めばその理由も分かるはずよね……。とりあえず、そういうことにしよう。そんなわけで全体に目を通しているのだけど、読めば読むほど気が重くなっていくのは気のせいじゃないはず。 全部読み終わった後、信じられなくて何度も読み返してみるけど、どうやらあたしの目がおかしくなったわけではないらしい。余計に、理由が分からなくなった……。 「……全てに目を通せたな?」 混乱するあたしをよそに、元帥は話を進めようとする。確かに書類には目を通せたけど、その直後を狙って声をかけてくる辺りがさすが元帥。いったい、何を話す気なんだろ? 「は、はい……。あの、何故あたしにこれを?」 「それはこれから話す。……対人班所属、春咲朱音。お前にその仕事を任せる」 「は、はいぃ!?」
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