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さっき元帥から渡された例の書類を抱え、ため息混じりに廊下を歩いていると物陰からあたしを見る複数の視線を感じた。時々、あたしには聞き取れないくらい小さな声でひそひそと話している人の姿も見かけるけど、一体何の話をしているんだろ?
そんなことを考えていると、背中を軽く推されるように叩かれた。後ろからは、クーラーの冷たい風がピンポイントで当たった時のような不気味な冷たさ。この感じは、あたしのよく知っているあの人?と思って振り返ってみると、そこにいたのはやっぱり育成・医学班の班長・雪那さんだった。
雪那さんは両目を包帯で隠している変わった女性だけど、育成を担当した人の良さを引き出すと評判だ。包帯で目を隠していること除けば雰囲気は優しいお姉さんだからモテるのだろうけど、雪那さんは男性恐怖症なんだそうだ。実際、ついこの間も、不用意に近づいて抱きつこうとした黒髪の男性が氷付けにされていた。何でそんなに苦手なんですか?って聞いてみたいけど、さすがに失礼すぎて今まで一度も聞けずじまい。
「あら、朱音さん。そんな暗い顔をしてどうかしましたの?」
ニコニコと微笑を浮かべる雪那さんに一瞬呆然としてしまったけど、ちょっと驚いた。やっぱりその状態でも、周りのことは見えているんだ……。そして、育成班を離れたというのに、たまに気にかけてくれるところが雪那さんの素敵なところだと思う。見た目はあたしと同い年くらいだけど、実際にはだいぶ年上だって知ってびっくりしたっけ……。
「朱音さん?」
「あ、ごめんなさい!少しボーっとしてました……」
「そうなの?……またホムラ様に呼び出されたそうですが、大丈夫?」
……あ、そっか。怒られた後はいつも今みたいにとぼとぼと帰ってくるから、雪那さんはあたしが今回も怒られたんだって思ってるのかな?あたしはもう部下じゃないのに今も優しいだなんて……。元帥と司令官にも雪那さんみたいな優しさが……あったら、それはそれで逆に怖い。
「大丈夫……とは言いがたいけど、何とか。今回は怒られたわけではないので」
「そう……。ならよかった」
雪那さんは微笑みを浮かべると、自分の持ち場へ戻っていった。どうやら心配して見にきたのではなく、たまたま偶然通りかかったから声をかけてくれたみたい。だけど、優しく声をかけてきてくれた雪那さんはいい人だと思う。
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