IIXI

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「徹がいなくなって もう2週間経ちます」 僕らは 徹の父親が淹れたコーヒーを飲みながら 父親の話に耳を傾けた。 「妻が叫んだんですよ。 徹の部屋の前で…… 驚いた僕は リビングから走って妻の所に飛んでいった。 その壁です」 徹の父親は 本棚の置いてある壁を指差した。 「あの壁に ぽっかりと大きな穴が 空いてたんです。 ぐにゃぐにゃと、真っ黒な渦が巻いていました。 恐ろしい穴でした……… 僕が駆けつけた時には 徹はその穴の前に立っていました。 情けない話しなんですが 腰を抜かしたように、 しゃがみ込んだ妻と一緒に 僕も恐怖で動けなかったんです。 あの時、駆け寄って 徹の手を掴んでいたら…… 僕は、自分の息子を 助ける事が出来なかったんです」 そんな事ない! 誰だって そんな場面に出くわしたら 恐怖で動けなくなる。 でも…… 徹の父親の思いが胸に響いて 軽率に口にする事が出来なかった。 「まだ夢に見ますよ。 あの日の事をね。 夜中にうなされて 目を覚まします。 何回も、この壁を叩いて…… ドリルで 穴を開けてみようかなんて考えた事もあります。 自由に、確かめてみて下さい」 服の袖で 涙を拭きながらリクが泣いていた。 みんな苦しんでいるんだ。 大切な人を こうして失くした人がたくさんいる。 聞きたい事は山程あった。 でも、 この父親にこれ以上 何も聞く事なんて出来なかった。 「徹は その世界で…… 元気にしてるんですね?」 もう一度 確かめるように父親は慶太を見て言った。 俺は しっかりと頷いた。 「妻に伝えてやります。 あの日から すっかりおかしくなってしまって 寝室に 引きこもったまま出てこないんです。 庭も荒れ放題で ようやくとれた休みなんで 慣れない草むしりをしてたんです」
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